THERE IS NO RETURN
ONCE WE CROSSED THE BOUNDARIES
境界の外から戻る事は出来ない
プラネタリーバウンダリーとは、人類の活動がある臨界点を超えた後には取り返しのつかない「不可逆的かつ急激な環境変化」の危険性があるものを定義する地球システムにおけるフレームワークの中心的概念である。ここでは、その危機的状況に対する認知の低さを鑑み、持続可能な地球の未来について、それを認知させることを目的とする。プラネタリーバウンダリーとは、ストックホルム・レジリエンス・センター所長ロックストロームらにより開発された概念である。現在、人類が地球システムに与えている圧力は飽和状態に達しており、気候、水環境、生態系などが本来持つレジリエンス(回復力)の限界を超えると、不可逆的変化が起こりうる。人類が生存できる限界(プラネタリーバウンダリー)を把握することにより、壊滅的変化を回避できるのではないか、限界(「臨界点」)がどこにあるかを知ることが重要である。地球の環境容量を化学的に表示し、地球の環境容量を代表する9つのプラネタリーシステムがある。1.気候変動(地球温暖化) 2.海洋酸性化 3.成層圏オゾンの破壊 4.窒素とリンの循環 5.グローバルな淡水利用 6.土地利用変化 7.生物多様性の損失 8.大気エアロゾルの負荷 9.化学物質による汚染 の9項目である。その9項目の現状の問題点とそのバウンダリー(「臨界点」)を超えないための未来への提言を明らかにする。
1.気候変動(地球温暖化)
地球温暖化とは、大気中にある二酸化炭素やメタン、フロンなどの温室効果ガスが増えすぎ、宇宙に逃げようとしていた熱が地表にたまりすぎると、気温が上昇し、地球全体の気候が変化することである。18世紀産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を燃やし、多くのエネルギーを得るようになった結果、大気中の二酸化炭素が急速に増加した。これが、地球温暖化を引き起こす主な原因である。地球全体が後戻りできなくなる「臨界点」の概念はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によって20年前に導入された。かつては、気候が「臨界点」を超えるのは、5℃以上の温暖化が起きたときだと考えられていた。しかし、IPCCは2018年の報告書で、それが1~2℃の温暖化でも起こり得ると警告している。パリ協定で温室効果ガス排出量の削減を各国が約束しているなど、地球規模での対策が講じられている。解決策として、炭素排出量をゼロにして、温暖化を1.5℃程度に抑えることが挙げられる。
2.海洋酸性化
海洋酸性化とは、大気中において、以前よりも濃度が上昇した二酸化炭素が、より多く海洋へと溶け込み、引き起こされる海水の㏗の低下のことである。海洋酸性化は「もう1つの二酸化炭素問題」として、その影響に対処し、最小限化することが地球規模で求められている。海洋生態系に相当のリスクをもたらし、2040年までに造礁サンゴの生育に適した海域が日本周辺から消失するとの予測を示す研究もある。対策として、化石燃料の消費を抑えた低炭素社会づくり、つまり地球温暖化対策と同じ対策が必要となる。
3.成層圏オゾンの破壊
地球を取り巻くオゾン層は、太陽光に含まれる有害な紫外線の大部分を吸収し、生物を守ってくれる。代表的なフロンであるCFC(クロロフルオロカーボン)は、冷媒、洗浄剤、発泡剤などに広く利用されてきた。フロンがいったん環境中に放出されると、成層圏にまで達し、そこで強い紫外線を浴びて塩素を放出してオゾン層を破壊する。その結果、地上に達する有害紫外線の照射量が増え、皮膚がんの増加、生態系への悪影響などが生じるおそれがある。地球的規模でみた場合、熱帯域を除き、長期的、全地球的にオゾン層の減少傾向が続いている。顕著なのは、南極上空のオゾン層の減少でできるオゾンホールである。国際的な取り組みとして、特定フロンおよびハロンの生産量の削減、スケジュールが定められ、規制物質の削減を目標にして、オゾン層がこれ以上破壊されないよう努力が続けられている。
4.窒素とリンの循環
低炭素社会(地球温暖化ガス対策中心)の構築を進めるために、バイオ燃料を活用することは重要であるが、燃料となる植物の増産には必ず、化学肥料の窒素、リン酸が必要である。生ごみ、下水、汚泥、家畜ふん尿などの窒素やリンの有機化合物が水中に排出されると、海域、湖沼の富栄養化を引き起こす可能性があり、生態系の中で過剰に蓄積され、生物多様性に重大な影響を与える危険がある。対策として、有機農業の推進が挙げられる。
5.グローバルな淡水利用
地球の97.5%が海水で、2.5%が淡水であり、そのうち実際に利用できる水はわずか0.01%程度である。世界の水問題の現状として、1.飲料水:世界で12億人が安全な水を利用できない。2.衛生設備:24億人が適切な衛生設備を利用できない。3.病気と死亡:年間約200万人の子供が水に由来する病気で死亡している。の3点が挙げられる。海水を膜で処理して、淡水化して、飲料水、工業用水、農業用水に利用する取り組みが地球規模で行われている。
6.土地利用変化
森林の二酸化炭素排出、吸収の変化、土地被覆の熱循環、水循環の変化に伴い、土地利用変化による、将来気候への影響が考えられる。将来の気温変化を考えるために、対策として、地球規模の影響評価の確立が期待される。地球規模の土地利用の影響評価には 1.社会経済シナリオの空間詳細化:都市成長に伴う、人口、GDPの地理的な分布変化パターンを推進する。2.地球規模の土地利用シナリオの構築:農地、牧草地、森林などの土地利用変化のパターンを推進する。3.土地利用変化に伴う炭素収支評価:生態系モデルを用いて森林減少、再生などに伴う二酸化炭素の排出、吸収のパターンを推進する。4.土地利用変化による気候影響評価:地球システム統合モデルを利用し、各土地利用シナリオの地表面気温に対する影響を評価する。の4つのステップが考えられる。
7.生物多様性の損失
生物の損失として、1.種の絶滅として、両生類やサンゴ、植物の4分の1が危機に瀕している。2.脊椎動物の個体数が1970~2006年までの平均で、約3分の1が失われた。3.淡水湿地、海水域、塩性湿地、サンゴ礁、藻場などで自然の生息地の規模や連続性が減少している。4.森林や河川など、生態系の分断化と劣化が、生物多様性と生態系サービスの劣化を招いた。の4点がある。
生物多様性の損失の「臨界点」として、1.アマゾンの森林が、森林伐採と山火事、気候変動の相互作用で、サバンナのような植生に移行する。2.農業肥料や下水による汚染が湖沼などの陸水を富栄養化させる。3.海水酸性化に加え、白化、富栄養化、乱獲などで、サンゴ礁生態系の機能に壊滅的な損失が発生する。の3点が挙げられ、この「臨界点」を越えてしまうと、劇的な生物多様性の損失と生態系サービスの劣化が生じるリスクが高まる。21世紀にわたって歴史上起こったものよりはるかに急速な種の絶滅、生息地の喪失、種の分布と豊かさの変化が予測される。国際、国内、地方レベルでの効果的な行動が必要とされる。
8.大気エアロゾルの負荷
化石燃料を燃やした時に大気中に放出あるいは生成された微粒子は、大気エアロゾルと呼ばれている。地球温度を冷却する効果があるが、温室効果ガスによる温室効果はエアロゾルによる冷却効果を凌駕するものである。人間の肺深くに到達して、種々の健康被害を引き起こす。また、酸性雨を引き起こし、森林や湖沼などの生態系に悪影響を及ぼす。大気汚染の被害も甚大である。対策として、発生源たる化石燃料の消費自体を抑制していくことが急務である。
9.化学物質による汚染
化学物質による環境汚染は、環境媒体や国際的な取引、物流を通じた化学物質汚染の広域化、とりわけ途上国での人と環境への影響が深刻である。地球規模の対策として、1.化学物質の環境における蓄積の実態、曝露量の評価、無害化への技術開発 2.化学物質、廃棄物の発生が少なく、リスクの少ない製品とサービスを基礎とする社会システムの転換 3.廃棄物、化学物質のリスク管理のための社会的原則の確立と包括的枠組みの構築 4.越境汚染に対する国際的取り組みの4点が挙げられる。
上記9つの項目の問題とその対策を考察してきたが、これが、人類が生存できる限界(プラネタリーバウンダリー)についての認識を持つよすがになることを願う。将来も、この地球に居住可能でいられるように、プラネタリーバウンダリーについての正しい知見をきちんと持つよう努力していかなくてはならない。